病医院経営の今をお伝えするコラム
借入金適正額の考え方

一体いくらが借入金の適正額なのか?
コロナ禍で話題となった「ゼロゼロ融資(無利子・無担保融資」制度などは多くの企業に活用され、これにより事業が継続できた企業も多かったと思われる一方で、当時いくつかの申請にも携わらせてもらったなかで、こうした疑問は常についてまわりました。
いまも、物価高対策などでの特別融資といった話がでていますが、そもそも貸してくれるから借入を節度なく増やすのが得策だとも思えません。
そこで、今回は自院の営業規模において、「借入金の適正額はいくらくらいなのか?」について、代表的な2つの考え方を示してみたいと思います。
1.借入月商倍率
借入金月商倍率とは、「借りれ金の残高が、自施設の売上(月商)に対し何倍か?」を測る指標のことを言います。適正なレンジ(幅)の解釈はいくつかありますが、概ね3~4倍(3~4ヵ月)が適正とされ、5倍程度までなら容認、とする考え方が一般的と理解しています。
<借入金月商倍率>
計算式
借入金÷(売上高÷12)
考え方
3~4倍(5倍までなら容認)。あるいは単純な考え方として、借入限度額の目安は年少の半分。
<事例>
令和3年末時点の長期借入金の残高は716,424千円であった。
同施設の1年間の売上高は1,578,563千円。売上高を12カ月で割ると、1月あたりの月商は131,545千円。
なお同施設の借入金の残高は当時716,424千円。これを月商131,545千円で割ると5.4倍となるので、容認範囲の中に収まることが分かります。
<備考>
この考え方の視点は月商=売上にあり、「利益」には着目されていません。そのため、利益率の多寡によっては、返済までにどのくらいの時間がかかるかわからないこと、また売り上げの変動が大きいような場合には、不安定にならざるを得ないという点には留意が必要です。
2.有利子負債キャッシュフロー倍率
有利子負債とは、利子がある借入金のこと。キャッシュフローとは入ってくるお金と出ていくお金の流れを言います。
有利子負債キャッシュフロー倍率は、「手元に残るキャッシュ(現金)に対し負債が何倍あるか」を示す指標であり、この倍率が低いほど返済能力は高く資金に余裕があるとされるもので、概ね10倍以内であれば一般的に良好といわれています。
細かい説明はさておき、以下に例を示してみます。
<有利子負債キャッシュフロー倍率>
計算式
銀行借入残高÷簡易キャッシュフロー
(簡易キャッシュフロー=税引き後利益+減価償却費)
考え方
有利子負債対キャッシュフロー倍率=10倍以内
<事例>
①ある時点の銀行借り入れ残高:692,674千円。
②同時点の税引き後利益=37,267千円。
③同時点の減価償却費=34,960千円。
692,674÷(37,267+34,960)=9.6(倍)
上記ではキャッシュフローを簡易に示していますが、売上から様々な費用を引いて、最終的に残る「税引き後利益」に「減価償却費」を足したものを手元に残るキャッシュ(Cash)とし、ある時点の借入金残高(692,674千円)をキャッシュで割ると9.6倍という数値になったので、概ね良好な範囲といえそうです。
<備考>
有利子負債キャッシュフロー倍率は、「利益」に着目しているという点で、借入金月商倍率の考え方よりは、返済にどのくらいの期間かかりそうかという目安も持つこともできます。
上記の例の場合、利益すべてを返済原資とすれば約10年以内で返済できる範囲ということができるでしょう。もっとも、利益すべてを返済原資にすることはないと思うので、実際には15~20年などという感じになると思われます。
▽おわりに
ざっとではありますが、一体いくらが借入金の適正額なのか? ということについて書いてみました。これ以外にも精緻な考え方はありますが、まずは入口としてこの2つの考え方くらいは抑えておくのも有益だと考えています。
2025年5月24日
オフィス謝府礼代表 阿部 勇司