病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「感染症による院内感染を予防しよう」

1.はじめに
百日咳が猛威をふるっている。感染者数が2025年第24週(6月9日~6月15日)全国で2,970人となった。赤ちゃんだけでなく、成人にも感染するので予防対策が重要である。
歯科医院にはいろいろな感染症の患者が来院する。感染症が怖いのは、潜伏期間があり、治ってからも一定期間感染力をもつ期間が残ることである。主な感染疾患の潜伏期間、感染期間を知っておきたい。
2.潜伏期間と感染期間を知る
歯科医院で感染が心配される主な感染症の症状と潜伏期間、感染期間は次のとおりである。
① 百日咳…百日咳菌の感染による気道感染症で1歳未満の幼児は死亡リスクがある。感染経路は鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染や感染者との接触感染である。予防には混合ワクチンを接種する。潜伏期間は、通常7~10日。感染期間は、発症前1週間程度から、発症後2~3週間程度である。
② 手足口病…手のひらや足の裏、口の中などに小さな発疹を起こす。コクサッキーウイルスやエンテロウイルス感染による感染症である。発症者の約9割は5歳以下の小児である。数日で自然に解熱し後遺症はまずない。潜伏期間は3~5日。症状の改善後も2~4週間は便の中にウイルスが排出される。
③ インフルエンザ…インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性ウイルス性疾患で、例年11月頃から患者が増え始め、1月頃にピークに達する傾向がある。症状は、急激な発熱や悪寒、のどの痛みなどで、38度以上の高熱が3、4日持続した後、解熱していく。感染力が強く、学級閉鎖などの対応が取られる。潜伏期間は18~72時間程度で、発症後2~5日間程度はウイルスが排泄される。
④ 新型コロナウイルス感染症…感染から1~14日の潜伏期間ののち、発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの呼吸器症状や、嗅覚異常や味覚異常といった症状が現れる。肺炎が悪化して集中治療室での人工呼吸管理が必要になることがある。最近は普通の風邪やインフルエンザのような扱いになったが、高齢者や基礎疾患などがある人、一部の妊娠後期の人は重症化リスクが高いといわれる。潜伏期間は3日間程度(ただし変異株によって異なる)、発症後5~10日間程度はウイルスが排泄される。
⑤ ノロウイルス…ノロウイルスに感染することで嘔吐、下痢、発熱などの症状を引き起こす。“感染性胃腸炎”の1つで、食中毒を引き起こしやすい。通常は3日程度で自然に回復するが、乳幼児や高齢者は脱水状態に陥ることがある。感染力が非常に強く、潜伏期間は14~48時間程度。免疫力の低下している人は治療後も長期間ウイルス排泄が継続することがあるので要注意である。アルコールで消毒できないため、トイレのドアノブ、水洗のノブ、トイレの照明スイッチなどは次亜塩素酸ナトリウムで清拭する必要がある。
3.感染患者への対応
多くの感染症は発熱を伴うため、歯科に来院する患者は少ないと考えられるが、激しい歯痛で来院する可能性がある。
このため体調不良の患者に対する体温計測が重要である。37.5度以上ある場合は、体温と血圧、SPO2を測定し、発熱がある場合は積極的な歯科治療は避け、鎮痛薬の投与などの応急的処置にとどめて、発熱外来の受診を勧める。そして、感染期間に配慮し、解熱後3~5日経過してからの再受診をご案内することが望ましい。
4.まとめ
感染防止対策には、すべての体液、血液、分泌物、排泄物は病原体が含まれている可能性があるという考え方が重要である。
コロナ禍が去り、感染対策を軽く考えがちになっている中、改めて感染症対策を見直し、とっさの時に院内感染を防止できるようにしておきたい。