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採用・人事労務
2026年07月21日

経験者採用が人手不足を悪化させるとき ~医療機関が見落としやすい「職場への適応力」~

執筆した医業経営コンサルタント

市澤 武晴

市澤 武晴

株式会社Lifehack
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1.はじめに

人手不足に悩む医療機関では、「できれば経験者を採りたい」と考えるのが一般的です。
「経験者であれば、基本的な業務を一から教えずに済み、早く戦力になってもらえる」
そう期待するのは当然でしょう。
しかし、実際には、経験者を採用したことで既存職員の負担が増え、職場の雰囲気や患者対応まで悪化することがあります。

人手不足を解消するための採用が、かえって人手不足を深刻にするのです。


2.経験はあっても、職場に適応できない

ある診療所では、看護師の退職を控え、早急な採用が必要でした。
病院勤務の経験が長く、患者対応にも慣れた看護師から応募があり、院長は「これだけ経験があれば、すぐに任せられる」と判断しました。

ところが入職後、本人は前職の手順を基準に仕事を進め、説明を受けても「前の病院ではこうしていました」と繰り返しました。
年下の職員から教わることにも抵抗があり、分からないことを確認せず、自分の判断で進める場面も見られました。
忙しい時間帯でも自分の担当を優先し、周囲を手伝おうとしません。

技術的な経験はあっても、新しい職場で周囲と連携して働くことができなかったのです。


3.原因は本人だけではない

このような場合、院長は「協調性がない」「期待外れだった」と考えがちです。
しかし、本人だけの問題として片付けると、同じ失敗を繰り返します。

採用側にも、主に3つの問題がありました。

1つ目は、経験年数をそのまま能力と評価したことです。
長く働いてきたことと、新しい職場に適応できることは別です。経験が長いほど、過去の方法を変えにくい場合もあります。

2つ目は、面接で「何ができるか」しか確認しなかったことです。
スキルや経験は聞いていても、自分と異なる考え方を受け入れられるか、院内の方針に合わせられるかまでは確認していませんでした。

3つ目は、経験者だから大丈夫だと考え、受入れを省略したことです。
指導担当者や到達目標が曖昧なため、本人は自分の方法で動き、周囲は「勝手に仕事を進める」と感じるようになりました。


4.採用失敗は組織全体に広がる

この診療所では、既存職員が本人の仕事を確認し、やり直す場面が増えました。
患者対応や診療準備に使う時間が、説明や修正に費やされ、「経験者なのに、なぜ何度も教えなければならないのか」という不満も生まれました。
その結果、職員同士の情報共有が減り、患者さんを待たせる時間や説明のばらつきも増えました。

採用失敗による損失は、人件費や求人広告費、人材紹介手数料だけではありません。
指導時間、仕事のやり直し、職員の疲労、患者対応への影響まで含める必要があります。

さらに、既存職員が「この状態が続くなら辞めたい」と考え始めれば、一人を採用したことで長く働いてきた職員を失うことにもなりかねません。


5.面接では適応力を確認する

経験者採用では、技術や知識だけでなく、職場への適応力を見極める必要があります。

例えば、次のような質問が有効です。
「前の職場と仕事の進め方が違ったとき、どう対応しますか」
「年下の職員から別の方法を教えられた場合、どう受け止めますか」
「自分の考えと院内方針が異なる場合、どう行動しますか」

重要なのは、模範的な答えではなく、過去の具体的な行動を聞くことです。
前職の不満が多い、問題の原因を周囲に求める、自分の正しさを繰り返し主張する場合は、慎重に判断する必要があります。
一方、経験が浅くても、確認できる人、指摘を受けて行動を変えられる人、周囲と協力できる人は、育成によって戦力になる可能性があります。


6.早期戦力化を急ぎ過ぎない

早期戦力化とは、早く一人で仕事をさせることではありません。
自院の方針を理解し、周囲と連携しながら、患者さんに安定した対応ができる状態をつくることです。
経験者であっても、入職後1か月程度は、技術だけでなく、報告や相談、周囲との協力、自院の考え方への理解を確認します。

問題がある場合は、「協調性がない」と曖昧に伝えるのではなく、求める行動を具体的に示します。
「判断に迷ったら、自分で進めず確認してください」
「前職との違いがあっても、まずは当院の方法で行ってください」

こうした基準を明確にすることが必要です。


7.まとめ

経験者採用の失敗は、本人の能力不足だけで起こるものではありません。
経験年数を重視し過ぎること、面接で適応力を確認しないこと、受入れを省略することが重なると、採用後の問題が起こりやすくなります。

人手不足のときほど、院長は採用を急ぎたくなります。
しかし、急いで採った一人が、今いる職員を疲弊させるのであれば、その採用は成功とはいえません。
経験者採用で本当に見るべきなのは、過去に何年働いたかではなく、新しい職場で学び直し、周囲と協力し、自院の方針に合わせて行動できるかどうかです。

「人手不足を埋めるための採用が、今いる職員を失う原因になっていないでしょうか。」


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