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機器・システム導入
2026年07月29日

設備投資は「新しいから」では決めない ~医療機器更新を収益と業務改善から考える~

執筆した医業経営コンサルタント

市澤 武晴

市澤 武晴

株式会社Lifehack
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1.はじめに

医療機器の更新を検討する際、院長から次のような言葉を聞くことがあります。
「導入から10年以上たっている」
「故障して診療が止まると困る」
「新機種は検査時間が短い」
「補助金が使えるうちに導入したい」

いずれも検討を始める理由にはなります。
しかし、それだけで数百万円、数千万円の投資を決めるのは危険です。

医療機器の投資判断が難しいのは、数字だけでは決まらないからです。
故障への不安、営業担当者との関係、他院への対抗意識、節税への期待、最新の医療を提供したいという医師としての思いが重なると、「本当に必要かを検討すること」が、いつの間にか「購入する理由を探すこと」に変わってしまいます。

医師として「使いたい機器」と、経営者として「導入すべき機器」は、必ずしも同じではありません。
この2つを混同すると、設備投資は経営判断ではなく、院長個人の希望になってしまいます。

設備投資で見るべきなのは、機器の新しさではありません。導入後、医業収入、費用、業務、患者、職員、資金繰りに何が残るかです。
最悪の場合、残るのは「最新の機械」と「数千万円の借入金」だけ、という事態になりかねません。


2.「更新」と「新規導入」は分けて考える

医療機器への投資は、大きく2つに分けて考える必要があります。
1つは、現在使用している機器を同じ用途の新機種へ入れ替える「更新投資」です。
更新投資では、機器を新しくしても、診療報酬や患者数が大きく増えるとは限りません。
主な効果は、故障による診療停止の回避、修繕費の削減、検査時間の短縮、精度や安全性の向上です。

もう1つは、新しい検査や治療を始める「新規導入」です。
こちらは医業収入の増加が期待できますが、対象となる患者数、稼働件数、材料費、保守料、職員配置まで検討する必要があります。

この2つを混同すると、単純な更新であるにもかかわらず、根拠の薄い増収効果を期待してしまいます。


3.更新投資は「止まった場合の損失」で考える

ある診療所では、導入から十数年が経過した医療機器の更新を検討していました。
現在も使用できていましたが、メーカーから部品供給終了の可能性を伝えられ、院長は故障を心配していました。
この場合、「新機種にすれば医業収入が増えるか」だけで判断するのは適切ではありません。

確認すべきなのは、次の点です。
・故障した場合、何日診療が止まるのか
・代替機器を借りられるのか
・予約変更や他院紹介によって、どの程度の損失が生じるのか
・修理を続けた場合、今後いくらかかるのか

診療停止による損失が大きく、代替手段も乏しい機器であれば、直接的な増収がなくても更新する合理性があります。
一方、故障しても代替手段があり、使用頻度も低い機器であれば、更新を急がない選択もあります。
更新投資は、増収額ではなく、診療停止や修繕による損失をどこまで防げるかで考える必要があります。


4.新規導入は「実際に医院へ残る効果」で判断する

新規導入では、医業収入の増加額だけを投資効果としてはいけません。
検査件数が増えれば、材料費・消耗品費などの変動費、保守料・システム利用料などの固定費、場合によっては追加人件費も発生します。

したがって、投資回収は次の考え方で計算します。

年間の実質的な効果=
医業収入の増加額-追加の材料費・消耗品費-保守料などの追加費用-追加人件費+実際に削減できる費用

ここで注意したいのが、業務時間の短縮です。
職員の作業時間が年間100時間減っても、それだけで人件費が減るわけではありません。
その時間によって残業が減る、追加の患者さんを診られる、増員を回避できる、外注費を削減できるなど、具体的な結果につながって初めて、金銭的な効果として計算できます。
職員に余裕が生まれることにも価値はあります。

しかし、それをそのまま利益や現金収支の改善として扱うのは危険です。


5.医業収入ではなく、実質効果で回収期間を見る

例えば、600万円の医療機器を導入し、1日1件、月20件の検査を追加できるとします。
年間の追加件数は240件です。
1件当たりの医業収入が8,000円なら、年間の医業収入増加額は192万円です。

増収額だけで見れば、
600万円÷192万円=約3.1年
で回収できるように見えます。

しかし、実際には年間の材料費・消耗品費が72万円、保守料・システム利用料が36万円かかるとします。
さらに、機器導入によって年間15万円の残業代が減り、外注費を3万円削減できるとします。

この場合、年間の実質的な効果は次のとおりです。
192万円-72万円-36万円+15万円+3万円=102万円

したがって、実際の回収期間は、
600万円÷102万円=約5.9年
となります。

医業収入の増加額だけで見れば約3.1年で回収できるように見えますが、費用を差し引いた後に医院へ残る効果で見ると、約5.9年かかります。
その差は約2.8年です。
この差を見落とせば、投資効果を実態より大幅に甘く評価することになります。


6.稼働件数は一つの数字で決めない

営業担当者から「月20件は見込めます」と説明されても、計画どおりに稼働するとは限りません。
対象患者が足りない、医師が十分に勧めない、職員が操作に慣れない、予約枠を確保できないといった理由で、稼働件数が伸びないことがあります。
提案書では、想定件数が順調に確保できる前提で試算されていることがあります。
また、院内の追加作業や人件費、稼働率の低下までは十分に反映されていない場合もあります。

そのため、自院では次の3つのケースで計算しておく必要があります。
・計画どおり稼働する場合
・計画の7割にとどまる場合
・計画の半分にとどまる場合

ここで重要なのは、稼働件数が減っても、すべての費用が同じ割合で減るわけではないことです。
材料費や消耗品費は件数に応じて減りますが、保守料、リース料、借入返済額などは減りません。
そのため、稼働率が半分になった場合、実質的な効果は単純に半分になるのではなく、それ以上に悪化することがあります。
重要なのは、最も良い場合にどれだけ利益が出るかではありません。
想定の半分しか稼働しなくても、借入返済を続けながら医院経営を維持できるかどうかです。


7.「節税」と「補助金」を購入理由にしない

「利益が出ているので、税金を払うくらいなら機器を購入したい」という相談もあります。
しかし、節税になることと、投資として合理的であることは別です。
税負担を減らすために不要な設備を購入すれば、減る税金以上の現金が医院から流出します。
また、多くの医療機器は減価償却となるため、購入した年に全額が経費になるわけではありません。
不要なものを購入することは、節税ではなく、単なる無駄な支出です。

補助金も同様です。
補助金を利用して安く購入できても、自己負担、保守料、消耗品費は残り続けます。
必要性の低い設備を安く購入することは、経営改善ではありません。


8.院長の年齢と将来計画も判断材料になる

同じ医療機器でも、院長の年齢、後継者の有無、医院の患者数によって判断は変わります。
40代で患者数が増えている医院と、院長が数年後の承継や閉院を考えている医院では、同じ5.9年の回収期間でも意味が異なります。

特に注意したいのが事業承継です。
後継者が決まっていないにもかかわらず長期回収の投資を行うと、承継後も十分に活用できる機器でなければ、残債や保守契約が譲受側の負担と見なされ、譲渡条件に不利に働く可能性があります。
反対に、稼働率が高く、承継後も継続して使用できる機器であれば、医院の価値を高める場合もあります。

設備投資は、次の問いとセットで考える必要があります。
「この機器を回収するまで、現在の診療体制を継続する見込みがあるか」
「次の経営者にとっても価値のある設備か」

設備投資は、機器単体の判断ではなく、医院の将来計画と結び付けて考えるべきです。


9.返済できることと、採算が合うことは別

借入やリースを利用する場合、「月々の支払いが可能だから導入できる」と判断しがちです。
しかし、返済できることと、投資効果が十分であることは別です。
また、損益計算書上では利益が出ていても、借入金の元金返済によって手元資金は減少します。

設備投資では、回収期間だけでなく、毎月の返済後に、給与、賞与、納税、修繕などに必要な現金が残るかを確認しなければなりません。
資金繰りに余裕がない状態で高額投資を行えば、想定どおり稼働していても、別の設備故障や人件費上昇に耐えられなくなることがあります。


10.導入後の検証までが設備投資

設備投資は、機器を設置した時点で終わりではありません。
導入前に、検査件数、医業収入、材料費、作業時間、修繕費を記録しておきます。
導入後は、3か月後、6か月後などに同じ数字を確認し、計画どおりの実質的な効果が出ているかを検証します。
効果が出ていなければ、予約枠、患者さんへの案内、職員配置、使用方法を見直します。
この事後検証を行わなければ、評価は「買ってよかった気がする」という曖昧な感覚で終わってしまいます。

設備投資は、購入して終わりではなく、導入後に成果を出すところまでが経営者の仕事です。


11.まとめ

医療機器の見積書には、価格と性能は書かれています。
しかし、患者数が本当に増えるのか、職員が使いこなせるのか、費用を差し引いた後に医院へ現金が残るのか、借入返済後に資金繰りを維持できるのかは書かれていません。

そこを見極めるのが、経営者である院長の仕事です。

設備投資では、更新と新規導入を分け、実質的な効果、稼働率、固定費、資金繰り、医院の将来まで確認する必要があります。

導入を正式決定する前に、今一度ご自身に問いかけてみてください。
「その機器を買う理由を探していませんか。買わない選択肢も含めて、客観的な数字で比較できていますか。」


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