病医院経営の今をお伝えするコラム
病院広報戦略

病院での広告は、ガイドライン等により明確にルールが規定されています。当院はそのガイドラインに従い「病院広告戦略」を行ってきましたが、一方で「病院広報戦略」にも力を入れてきました。ここでは「広報」と「広告」の違いに触れながら、当院が今まで取り組んできた「病院広報戦略」と「病院広告戦略」について紹介します。
【「広報」と「広告」の違い】
「広報」とは、官公庁・企業・各種団体などが、事業内容や活動状況を一般の人に広く知らせ、理解を求めること。また、その知らせ。文書PR(三省堂大辞林より)。
「広告」とは、人々に関心を持たせ、購入させるために、有料の媒体を用いて商品の宣伝をすること。また、そのための文書類や記事。広く世の中に知らせること(三省堂大辞林より)。
どちらも“広く知らせる”という点では同じようにみえますが、差別化のポイントは「有料の媒体を用いているかどうか」で
す。
【「広報」と「広告」のメリットとデメリット】
「広報」は、コストをかけずに発信できるのがメリットです。企業側は、掲載媒体(TV、雑誌、新聞、Webなどの媒体)に取り上げてもらえるような価値ある魅力的な情報を発信することで、費用をかけずに企業情報を掲載できます。情報を掲載するかどうかは掲載媒体側が判断をするため、企業側は掲載可否のコントロールはできません。
しかし、第三者である掲載媒体側の意志によって取り上げられた記事は、「客観性が増し、読者から高い信頼・信用を得る」ことができます。狙った読者へのアプローチはできませんが、間接的に広い認知を得られる可能性があります。
「広告」は、伝える内容については広告主である企業に決定権があるので、事前にどのようなメッセージを載せるかはコントロール可能です。伝えたいメッセージもストレートかつ簡潔に伝えられるため、不特定多数の人に直接的なアプローチができるというメリットは大きいと思います。しかし、数多くの広告が存在する中で、いかに印象を残すかは大きな問題です。
当院では、強い説得力・メッセージ力で伝えていくために「広報」に力を入れています。当院で考える「広報」とは、「社会や地域に当院の活動や理念、基本方針、信条等を理解してもらう努力により信頼関係を築き、コミュニケーションを通じて当院のファンになってもらう活動」と考えています。近年ではSNS 等による「攻めの広報」が活発化しており、「取り上げてもらうのを待つ広報」から「自分で発信をしていく攻めの広報」へ工夫やアイデアを集結し、取り組んでいます。
【当院での広報戦略】
どうしたらできるだけ費用をかけずに広報ができるか、メディアに取り上げてもらえるかを考えて広報戦略を立てています。
2020年から全世界で蔓延を続けている新型コロナウイルス感染症対策で、当院が2020年4月に導入した「ドームハウス」もその一つです。①発熱患者との動線を分けること、②体調チェックや検温を行う職員や患者さんの環境を改善すること、③より安全で安心して当院を利用してもらうこと等を目的に導入しました。
導入時は新型コロナウイルス感染拡大第一波で、当院のような予定入院・予定手術等が多い医療機関に対して、メディア等を通じて専門家の方々が院内感染を防ぐために治療の延期を呼びかけられ、その結果、かなりの患者減になり経営に大きな影響が出始めていました。「このままでは経営が危機的な状況になる。そうならないようにどうしたら集患できるか? そのためにはまず安心で安全な感染対策をしている病院であると発信することが必要」と考え、地元テレビ局・新聞社・情報誌等へ取材の話を持ち掛けました。
「ドームハウス」はキャンピングカーを制作する会社がレジャー用に開発したもので、それを感染症対策に利用したこともあり、興味を持ったテレビ2局、新聞1社、経済情報誌1社、医療情報誌1社の取材を受けることになりました。メディアの力は強く、「成尾整形外科病院は、あのドームがある病院ですね」と話題にされるようになり、ドームハウスを見に来る人たちもかなり増え、瞬く間に「ドームのある病院」として浸透したように思います。
その後もいろいろな病院の事務長・看護部長や県議会議員も見学に来られ、「安心で安全な感染対策をしている病院」というイメージ広報戦略が功を奏したのか、2020年度の収益は前年度対比2%程度の減収に抑えることができました。
この「ドームハウス」の導入に際しては、当時補助金も全くない時期だったため、委託業者や協力業者に「一緒に従業員を守りませんか」と協賛を呼びかけ、多くの業者に賛同していただきました。検討から設置までわずか1週間でいち早く導入することができ、院内感染および減収を抑制できたことは業者の皆さまの理解、賛同のおかげと心から感謝しています。
熊本県で唯一の総合経済誌である『くまもと経済』は、「地域経済の活性化に向けた報道と情報提供」を編集方針に、地元密着の取材、豊富な情報量で経済界をはじめ県内各界の経営者・ビジネスマンを主な読者として7万~8万人に愛読されています。
当院を利用している患者層には経営者やビジネスマン等が多く、『くまもと経済』に記事として取り上げてもらうことによって、当院の活動や信条を知ってもらう機会につながると考え、定期的に情報を提供しています。
また、『くまもと経済』が行うイベント等にも積極的に参加や支援を行い、関係性を深めていきました。そのような長年の活動や関係から、当院院長をぜひ『くまもと経済』の表紙にしたいという依頼を受けることができました(説明画像)。表紙だけでなく本誌の記事として10ページほど、院長および病院のことを取り上げていただきました。
もちろん表紙、本誌記事掲載に費用は全くかかっていません。院長および40代の経営者が表紙になることは珍しかったようでかなりのインパクトがあり、ブランディングにもつながったのではと思っています。
「広報」は、日頃から継続した取り組みも必要です。連携先への定期訪問、地域の老人会・自治会への健康教室開催、地域イベントの協力(健康祭りなど)、広報誌、ホームページやSNSでリハ動画・医師ブログ等情報発信も丁寧に行っています。また、当院の医療体制や想い、地域とのかかわり等を知ってもらうために、医療機関との連携懇談会や市民公開講座も定期的に開催しています。
コロナ禍前に公的医療機関との共催で開催した連携懇談会は、多くの医療機関(約120人)に参加してもらいました。市民公開講座には350人を超える市民が参加し、健康意識の高さに驚きました。講座では当院の医療情報や治療法紹介のみならず、ジュニアチアダンスや抽選会、健康食品等の来場者プレゼント等、多くの企業や団体とも連携し、会を盛り上げてくれました。
近年では消防署救急隊との症例検討会を開催し、救急隊と当院の医師や看護師等との顔の見える関係性を構築しています。救急車のスムーズな受け入れによる地域貢献にもつながっています。
最近、当院が力を入れているのがインナーとして職員へ発信する院内広報です。ともに働く仲間や院内の各部署が今何に取り組み、どのような活躍をしているのか等を発信し、想いの共有をたくさん持つことがブランドや責任感を豊穣すると考えています。
職員が仲間や職場を愛する人柄や環境は外部ににじみ出ます。これを共感・安心・当院が飛躍していく期待感に形を変え、アウターとして発信していきたいと考えています。
【当院での広告戦略】
「広告」に対しては、ストーリー性とインパクトのある内容を心がけています。天気予報フィラー、新聞記事、医療機関情報誌などにも取り組みましたが、数年前に医師7人の動画(番組名「教えてドクター」)をシリーズとして制作しました。医師の専門分野の話と人柄が分かるようなプライベートの一場面、最後に各部署の頑張りを紹介し、当院の雰囲気が伝わるような番組にしました。この動画は当院ホームページで最もアクセスの多い医師紹介ページにリンクさせ、患者さんが医師や病院を選ぶ時に雰囲気が伝わるように工夫しています。
また、1年間、JRの車内窓上に掲示した広告はインパクト抜群で(説明画像)、各種団体の広報誌や情報誌、新聞朝刊にも型を変えて掲載しました。保健所や考査の厳しい新聞社にも相談し、掲示・掲載を実現することができました。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年4月15日号掲載分一部改編
