病医院経営の今をお伝えするコラム
医療安全対策等へのPCAGIP法の応用(提案)

【チームで取り組む再発防止】
高度化、複雑化する医療現場においては、医療事故により患者に予期せぬ有害事象が生じる可能性はゼロではありません。
日本医療機能評価機構(2019年度年報)をみると、療養上の世話 と治療・処置が上位を占め、また当事者となった看護師の職種経験をみてみると、1~5年の経験年数の件数はそれ以外の経験年数に比べて圧倒的に多く、部署配置期間も1~5年で件数が高いようです。
看護職は患者の治療や療養生活の支援全般に深く関わり、医療行為の最終実施者となる機会が多いことから、看護の提供プロセスの中で事故の当事者となる機会が他の職種に比べて高いことは想像に難くないでしょう。
現在では医療事故を報告することが定着し再発防止に取り組んでいこうとする安全文化が醸成されてきています。しかしながら、医療安全体制が整備されてきたといえども、医療事故は決してゼロにはならない現実も孕んでいるようです。
【PCAGIP手法】とは
PCAGIP法は、対人援助職が自分自身で糸口をみつけたり、新しい視点から自体を眺めたり、あるいは、事例に取り組んで行き詰まっている自分自身の感情に付き合えるような事例検討法が長年望まれてきたこと、対人援助職がエンパワーされ自分で問題を探る視点を身につけられる心理的成長の視点を基盤にした事例検討の方法が求められてきたことなどを背景に開発されてた方法です。
PCAGIP(Parson-Centered Approach Group Incident Process)
*新しい事例検討法PCAGIP;村山正治(九州大学名誉教授・東亜大学客員教授)
【PCAGIP手法を用いた組織的な支援の提案】
ヒヤリハットから医療事故などに至ってしまった経緯や状況をスタッフと振り返り、チームとして取り組むべき課題を明確にし組織全体で共有していかなければなりません。
課題を共有していく“場”の設定や個々の能力や努力に頼ることだけに留まらず、スタッフ1人ひとりの実践能力をチームとして保証していくための取組、加えて事故などから得た教訓を活かし、多職種、他部門の協力を得ながらチーム全体で医療事故等を未然に防ぐためのシステム改善に取り組む必要もあるでしょう。
医療機関として、再発防止の取組と連動させながら各部署での安全な環境づくりをスタッフと共に構築して行く必要があると考えます。
例えば ・医師やスタッフ間との協働体制の改善 ・スタッフ配置や勤務体制 ・薬剤の処方から投薬までのシステム ・マニュアルの改訂 ・患者自殺防止のための窓の施錠 ・医療機器等のデータ保存方法 ・設備や機器類の整備 などが考えられます。
医療安全などのミーティングにPCAGIP法を用いた場合、下記のような効果を期待することが考えられます。
*事故に関する情報の伝達
*チーム内に生じる反応の把握
*チーム全体の安心感の保証
1)オープンに話し合える場づくり
2)個人が責められないことへの保証
3)組織の支援の調整
*チームで乗り越えるための方向付け
1)事故を他人事にさせない
2)患者の安全を守る方向性の確認
*チームで取り組む再発防止
1)チームの課題の共有
2)チーム全体の看護実践力の向上
3)事故の教訓を生かした安全な環境づくり
事例提供者が簡単な事例資料を提供し、ファシリテーターと参加者が安全な雰囲気の中で・その相互作用を通じて参加者の力を最大限に引き出し、参加者の知恵と経験から事例提供者や組織に役立つ新しい取組の方向や具体策のヒントを見出していくプロセスを共有できる一手法として取り組んでみては如何でしょうか。
以上
*参考出典
❏ 福田紀子 ;「医療事故に関わったスタッフを支える」(日本看護協会出版会)
❏ 事故当事者となった看護職へのサポートとは、
「当事者としての義務や責任を全うしていくことができるようにしようとするものであり、果たすべき責任を軽くしようとすることや、当事者がしなければならないことを代行しようとするものではない」と指摘しています。
(鮎澤純子;事故当事者となった看護職へのサポートを考える 安全で安心な現場にするための緊急の課題、精神科看護、2007)
❏ 「非難の文化からの脱却」とは、
「非難しない文化の導入」を意味するものではありません。
盲目的に非罰性や個人の保護をアピールするのではなく、システムアプローチによる全体像の把握と、それに基づいた公正な対応を繰り返しながら、医療安全システム事態の公平性や信頼感を高めることの重要性を指摘しています。
個人の責任を全く問わないことではなく、ヒューマンエラー、システムの欠陥といった問題の全体像を把握し、慎重に評価し、共有していくこと、と述べています。
(長尾能雅;インシデントレポートを通した医療安全文化の醸成、病院、2014)